夏が過ぎ 風あざみ

エッセイ

気付けば6月半ば。

恐ろしいことに気付いてしまった。
今年はあまりセミの鳴き声を聞かなかったのだ。

温暖化は私達の夏から蝉の鳴き声まで奪ってしまったのかもしれない。
はたまた世に蔓延る行き詰まるような不穏な空気が、森全体にまで轟いているのかもしれない。

「生きろ、そなたは美しい」

私の中に潜む森の精が囁いた。

蝉に情を感じたのは生まれて初めてのことで、たまに身体全身を使って電光石火を決めてくることがあるけれど、今はそれも水に流そうと思う。
濃茶に染まるその身体は、夏に出現する天敵を彷彿とさせるので見ていて気持ちの良いものではないのだけれど、それも今回は気にしないでおく。

彼らの声と夏が戻ってくるのであれば。

遠い夏の声に思いを馳せる私の中に、母の声が響いた。

「夏はこれからだけど」


・・・・・。

すっかり忘れていたけれど、熱い夏が、今年もやってくるらしい。

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