つがいの蝶が一匹死んでいた

エッセイ

つがいの蝶

前日の雨によりってできた水たまりの周りを、一匹の蝶がふよふよと飛んでいた。
黒淵の中に鮮やかな青が光るアゲハ蝶。

よく見ると、飛び回る蝶の先にもう一匹いることに気が付いた。
その一匹は飛ぶことも動くこともせず、ただじっと動かずそこにいた。
ああ、死んでいるな、とすぐにわかった。

もう一匹はそのことに気付いているのかいないのか、
死んでいる蝶の周りを飛び回っては傍に留まり、しばらく周辺を歩いては飛び回る動作を繰り返した。

つがいなのか、仲間なのか。
2匹の関係性は私にはわからないけれど、ジリジリと照り付ける太陽の下、
ぴくりとも動かない亡骸に寄り添い続ける姿は、ただ同種の蝶であった偶然を超える何かが、彼らの間に存在するように感じられた。

絆とは不思議なもの

恋愛がしたいけれど相手がいない、と、職場の後輩くんが日々嘆いている。

恋愛を楽しんだ末につがいとなる相手が欲しいと若き青年は熱弁するのだが、
上手くいってほしい反面、なかなか難しい問題だなぁと思ったり。

絆は一日二日で完成することはなく、積み重ねていくものだと思うのだけれど
積み上げた先に必ずしも美しく強固な城ができる保証はどこにもない。
美しく見える城が実ははりぼてだった、なんてよく聞く話しだ。

動かない相手に寄り添い続ける蝶の姿は儚くも美しい現実であるのに、
フィクションでしか心を潤すことのできない自分を見ると、世界に取り残されたような気持ちになる。

物語は続く

用事を済ませ再び水たまりの前を通ると、飛び回っていた蝶は消えていた。

対して、息を殺しただの1ミリも動かない蝶は、変わらずそこに亡骸として横たわっている。

ぐるぐると飛び回っていたもう一方の存在はどんな気持ちでその場を離れたのか。
目の前で息をしていない存在は、消えてしまった存在を嘆いているのか、それとも安心するのだろうか。

2匹の関係性も、その先にある悲しみも、想像に反して案外ファンキーでドロドロな物語だったりするのかもしれない。

つがいの蝶と、人間と。それぞれの物語は続くらしい。


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