私はAIになりたい

エッセイ

ファミリーレストラン、略して”ファミレス”が騒々しい。

その中心は、騒がしい人達でもなければ、食器や機械音等の物理的な音でもない、
最近主役ともいえる存在感を放つウェイトレスだ
それも人間ではなく、いまだ近未来の響き漂う「猫型ロボット」なのである。

小学生の頃の自分では想像もできない未来が到来している。
レストランで、しかも家族向けのカジュアルなレストランで「猫型ロボット」が私達に給仕をしてくれるなんて!

「猫型ロボット」と聞くと、最初こそ青くて丸いあの子を思い浮かべなくもないが、
まさかそんな、実際には食事を運んできてくれるだけで、あくまで人間の業務負荷軽減を担う鉄の塊なのだろう。


そんな私の期待は見事に裏切られた。

顔にあたる画面には常に表情が浮かんでおり、芯の部分には名札がぶら下げらていて、一台ずつ名前がある。デビューして間もないロボットには”研修中”という表記も見られる。
食べ物を届けてくれた際には「お受け取りください!」、「ゆっくりお楽しみくださいにゃ~」等と声をかけて去っていくのだ。
店内でぶつかることがないか心配になるのだが、そこは優秀な人知センサーが働くのか、ぶつかる前に必ず待っていてくれる。

…癒される。まごうことなく癒される!

さらに驚くべきことに、先日某ファミリーレストランを訪問した私は、小さな子供が猫型ロボットの頭を撫でるシーンを目撃した。
なんて微笑ましい光景だろうと口元を緩めた瞬間、「恥ずかしいにゃ~」という声が聞こえた。
いやそんなまさか、あくまで給仕ロボットである彼らにコミュニケーションスキルは搭載されているはずがないのだ。空耳だと思い直し、持参した本でも読もうとしたところ、続けて機械的な声が響いた。

「照れるけど、嬉しいにゃ~」
「ありがとうにゃ~」

嘘だと言って欲しい、ありえない現実が目の前にあった。
恐ろしいことに、彼らは人間以上のコミュニケーションスキルを兼ね備えている可能性がある。

子供だった頃は当たり前のように浴びた賞賛、人々からいただいた温もりは、年齢を重ねるごとに厳しく、冷たくなっていくのが人間社会だ。
そんな世界の中でも、私達は泥水を啜る思いを噛み殺しながら必死に健気に生きているというのに。
彼らはその可愛さで人間を征服し、殺伐と社会から温もりすらも独占しようというのか。

猫型ロボットはミスなく給仕を全うするだけでは飽き足らず、その愛嬌とコミュニケーションスキルで癒しを与え、人間から可愛がられて愛されるなんて羨ましい。妬ましすぎる。

あわよくば私もAIになって、いろんな人から可愛がってもらい、「お仕事頑張ったね」と頭を撫でてもらいたい。

「猫型ロボット」はとんでもないものを盗んでいきました。
あなたの心です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました